ピロリ菌
「ピロリ菌」とは、らせんの形をした細菌で、正式名称は“ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)”といいます。1982年に胃の粘膜に生息している事が初めて報告されました。
厚生労働省によると、日本のピロリ菌感染者数は約3,500万人と推定されています。
ピロリ菌にどのようにして感染するかは、まだはっきりとは分かっていませんが、「唾液などからの経口感染」が主な原因ではないかと考えられています。ピロリ菌の感染は、幼少期(5歳頃)までに起き、大人になってからはほぼ感染しません。
ピロリ菌が胃に長期間感染し続けることで慢性胃炎を引き起こし、胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃がんが発生する危険性が高くなることが分かっています。
胃の中からピロリ菌を完全に除去するためには、服薬による治療を行う必要があります。
胃の不調が続いている方や、健診でピロリ菌感染の指摘を受けた方、ピロリ菌除菌について詳しく知りたい方は、お気軽に当院までご相談ください。
「ピロリ菌」感染によって、引き起こされる病気
ピロリ菌に感染すると「胃炎」が起こりますが、ほとんどの方は自覚症状を感じません。
胃の病気になってから、胃もたれ・胸やけ・吐き気・空腹時の胃痛・食後の腹痛・食欲不振などの不快症状を感じるようになります。
ピロリ菌に感染すると、気づかないうちに少しずつ胃の防御機能が低下していき、そこにストレスや食生活の乱れなどの環境因子が加わることで、様々な病気を引き起こし、次第に悪化していきます
ほかにも、のどの違和感(詰まる感じ、イガイガする)、声が枯れるなど食道以外の症状も現れることがあります。
慢性胃炎(ヘリコバクター・ピロリ感染性胃炎)
ピロリ菌感染が長く続く事により、炎症範囲が胃全体へと広がった状態です。
萎縮性胃炎
慢性胃炎が続いて、胃液や胃酸を分泌する組織が減り、胃粘膜が薄くなった状態です。胃液が十分に分泌されないので、消化不良となったり、胃もたれを感じたりする事があります。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍
胃粘膜が弱り、強い酸(胃酸)によって胃や十二指腸が深く傷ついた状態です。自覚症状は心窩部(みぞおち)の痛みで、胃潰瘍の場合は食事中~食後、十二指腸潰瘍の場合は空腹時に痛みを感じます。潰瘍がある人のピロリ菌感染率は約80~90%と高いですが、除菌治療により再発の危険性を減らす事が出来ます。
胃がん
胃炎や萎縮が続いた胃粘膜から胃がんが発生します。2014年、世界保健機関(WHO)は「胃がんの8割はピロリ菌感染が原因で、ピロリ菌の除菌をすることで発症が3~4割減少」とする報告書を発表しています。
そのほかにも、胃ポリープ(隆起した腫瘤)・機能性胃腸症(症状の原因となる病気がないのに腹部の不快症状がある状態)・胃MALTリンパ腫(悪性リンパ腫)を引き起こすことがあります。
さらに、難治性のじんましん・特発性血小板減少性紫斑病(血小板が減って、血が出やすい・血が止まりにくくなる血液疾患。難病指定)など、胃とは違う場所の病気もピロリ菌が原因となることがあります。
「ピロリ菌」の原因とは?
近年、日本のピロリ菌感染の主な経路として考えられているのが、「経口感染」です。
経口感染
ピロリ菌感染者の歯垢(しこう)や唾液からも菌が検出されています。ピロリ菌に感染している大人から小さなお子さん(~5歳前後)に対して、共通のお箸やスプーン、コップを使って食べ物をあげたり、飲み物の回し飲みをしたりすることは、避けましょう。
生水摂取
厚生労働省によると、高齢者のピロリ菌感染率は高く、70歳以上の高齢者では約60%~80%と報告されており、幼児期を過ごした第二次世界大戦前後に不完全に処理された生活用水にピロリ菌が混入していたことが要因の一つとして挙げられます。 一方で、上下水道が完備された1970年代以降に生まれた人の感染率は低く、40代で約20%、10代では約5%と、現代日本では生水摂取によるピロリ菌感染はほぼないと考えられています。
そのほか、水洗トイレの普及していない発展途上国などでは「糞口感染」もあります。
「ピロリ菌」の感染検査について
ピロリ菌感染の診断をする検査は、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を使う方法と使わない方法の2つに分けられます。
胃カメラを使う方法
口または鼻から細いファイバーを入れて、胃粘膜の炎症具合を確認した上で胃粘膜組織の一部を採取して、ピロリ菌の感染検査を行います。
- 迅速ウレアーゼ試験
採取した粘膜を特殊な反応液に入れて、色の変化でピロリ菌の有無を確認する方法。 - 組織鏡検法
採取した胃粘膜の組織を染色して、顕微鏡でピロリ菌を確認する方法。 - 培養法
採取した組織を5~7日程度培養し、ピロリ菌が増殖するかどうかを確認する方法。
当院の内視鏡検査は、消化器内視鏡専門医である院長が担当し、経口内視鏡(口から挿入)と経鼻内視鏡(鼻から挿入)のどちらも対応可能です。ご希望があれば、鎮静剤を使用しての内視鏡検査もできます。
胃カメラを使わない方法
- 抗体測定(血液・尿)
ヒトが細菌に感染すると、抵抗するための抗体が作られる免疫システムを利用した検査方法です。血液検査や尿検査でピロリ菌の抗体の有無を調べます。健康診断などでよく用いられます。 - 尿素呼気試験法
ピロリ菌が持っている酵素(ウレアーゼ)は胃の中にある尿素を分解して、アンモニアと二酸化炭素を生成する働きを持っていることを利用した検査方法です。専用の薬(尿素)を服用して、服用前後の吐き出した息に含まれる二酸化炭素(13CO2)の量を比較します。ピロリ菌に感染すると、吐き出した息に13CO2が多く含まれますが、感染していない場合にはほとんど含まれません。除菌治療後の効果測定によく使われます。 - 糞便中抗原測定
糞便中にピロリ菌の抗原があるかどうかを確認する方法です。
「ピロリ菌」の除菌治療について
ピロリ菌は一度持続感染が成立すると、自然消滅することはほんどありませんので、服薬による除菌治療が根本治療となっています。
ピロリ菌除菌治療の流れ
除菌治療では、3種類の薬(胃薬1種類・抗生物質2種類)を1日2回ずつ、7日間服用します。
除菌の対象となっている病気(胃潰瘍など)の治療
除菌の前に、胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの病気がある場合は、その治療を先に行います。
1次除菌治療
- 胃酸の分泌を抑える薬(1種類)
プロトンポンプ阻害薬(PPI)またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB) - 抗生物質(2種類)
クラリスロマイシン、アモキシシリン水和物(一般名)
近年、クラリスロマイシンは副鼻腔炎や風邪など広く利用されていることから、耐性菌となっている(菌に対して薬が効きにくい)ケースが増えてきたため、除菌成功率は約70~80%です。
除菌の効果判定検査
1次除菌治療から8週間以上開けてから、検査をします。尿素呼気試験か糞便中抗原測定を主に用います。
※抗体測定でピロリ菌の効果判定を行う場合には、12ヶ月以上開ける必要があります。
2次除菌治療
1回目でピロリ菌の除菌が成功しなかった場合には、2種類の抗生物質のうちの1つを1回目とは別の薬(メトロニダゾール)に変えて、再び除菌治療を行います。
また、この2次除菌治療までは、健康保険が適用されます。2次除菌治療が不成功となった場合は、自費治療にて3次除菌、4次除菌を行う事があります。
よくあるご質問
ピロリ菌はうつりますか?感染予防はできますか?
乳幼児期には、感染する可能性があります。小さいお子さんの胃の中は、大人に比べて酸性度が弱く、また免疫も出来上がっていないため、ピロリ菌が生息しやすい環境となります。
ピロリ菌感染を予防するには、ピロリ菌保菌者さんの唾液がお子さんの口に入らないよう、離乳食の口移しをしない、スプーンやお箸・コップ・飲み物の共有をしないなど「家庭内感染の予防」に努めましょう。
逆に大人になってからは、ピロリ菌が口から入ったとしても、十分な免疫力と胃の中には強い酸(胃酸)があるため、一時的な急性胃炎だけで終わる可能性が高いです。
ヨーグルトでピロリ菌は完全にいなくなりますか?
機能性ヨーグルトを食べただけでは、ピロリ菌が完全にいなくなることはありません。ピロリ菌の活動の抑制や胃粘膜の炎症の改善などは、一時的な効果と報告されています。
ピロリ菌を根本的に退治するには、投薬での「除菌治療」が必要となります。
ただし、除菌治療の際に、機能性ヨーグルトの摂取を併用することで、除菌治療の成功率が高くなったとする研究結果も報告されています。
ピロリ菌の「除菌治療」を行うことで、注意点はありますか?
- ピロリ菌感染検査の前に、内視鏡検査を行う必要があります。
内視鏡検査にて慢性胃炎が確認出来た方に、ピロリ菌の検査を行う事が出来ます。
内視鏡検査をしないでピロリ菌検査をすることも可能ですが、その場合には健康保険の適応とならず、自費になります。 - 除菌治療で処方された薬は、自己判断で中止せず、最後まで服用しましょう。
自己判断で中止すると除菌治療に失敗し、治療薬が効かないピロリ菌(耐性菌)が現れてしまうことがあります。 - 除菌治療薬で、副作用が現れる場合もあります。
軟便や下痢が約10~30%で起こる事があります。その他、味覚障害、口内炎、アレルギー反応が起こる場合もあります。
また除菌治療終了後に、逆流性食道炎が発生する事もありますが、大抵の場合、薬でコントロールが可能です。気になる症状がある場合には、お気軽に当院までお声がけください。
まとめ
「ピロリ菌がいる胃の粘膜は老化する」と言われています。逆に言えば、ピロリ菌がいない胃は、若いときと同じ健康な胃粘膜の状態でいられるということです。
ピロリ菌の除菌により、胃の粘膜の老化をストップさせる事が出来ます。そのため、除菌は出来るだけ若いうちに行った方が良いとされています。
まだ一度も胃カメラを受けた事が無い方、ピロリ菌の感染の有無を調べた事が無い方は、是非一度、当院にご相談ください。
ピロリ菌の除菌治療により、将来の胃がんリスクを減らすことはできます。ただし、胃がんになる危険性がゼロになる訳ではありません。除菌治療終了後も1〜2年に1回は定期的に胃カメラを受ける事をお勧めします。